成年後見制度
成年後見制度
成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や精神障害により判断能力が低下してしまった人に
ついて、契約の締結等を代わって行う代理人など、
本人を援助する者を選任したり、本人が誤った判断により契約を締結した場合に、
これを取り消すことが出来るようにする等により、
これら意思決定の困難な人を保護する制度であるとともに
生命、身体、自由、財産等の権利を保護することを目的とするものである。
法定後見制度
認知症などの影響により、既に判断能力が低下してしまった方の利用する制度。
精神上の障害により本人の判断能力が不十分である場合に、
家庭裁判所が法律の定めに従って、本人を援助する者を選任し
この者に本人を代理する権限を与えることにより本人を保護する
ものである。
本人の判断能力及び保護の必要性の程度に応じて柔軟に対応することを可能に
するため、後見、保佐、補助の制度が設定されている。
<法定後見制度の概要>
後見 | 保佐 | 補助 | |
---|---|---|---|
対象となる方 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の方 | 判断能力が著しく不十分な方 | 判断能力が不十分な方 |
申し立てを出来る人 | 本人、配偶者、四親等内の親族,検察官,市町村長(注1) | 同左 | 同左 |
成年後見人、保佐人、補助人それぞれの同意が必要な行為 | - | 民法13条1項所定の行為(注2)(注3)(注4) | 申し立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定行為の一部 )(注1)(注2)(注4) |
取り消しが可能な行為 | 日常生活に関する行為以外の行為 | 同上 (注2・3・4) | 同上(注2・4) |
成年後見人等に与えられる代理権の範囲 | 財産に関するすべての法律行為 | 申し立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(注1) | 同左(注1) |
制度を利用した場合の資格などの制限 | 医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失う等(注5) | 医師、税理士等の資格や会社役員、公務員等の地位を失う等 | ー |
(注1)
本人以外の者の請求により、保佐人に代理権を与える審判をする場合本人の同意が
必要。補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も同じ。
(注2)
民法13条1項では借金、訴訟行為、相続の承認・放棄、新築、改築、増築、などの
行為を列挙。
(注3)
家庭裁判所の審判により、民法13条1項所定の行為以外についても、同意権・取消権
の範囲を広げることもできる。
(注4)
日常生活に関する行為は除かれる。
(注5)
公職選挙法の改正により、選挙権の制限はなくなる。(平成27年7月以降
公示・告示される選挙より)
任意後見制度
①任意後見制度とは、
⑴将来認知症などの影響により判断能力が低下した場合に備えて本人が
あらかじめ受任者と契約を締結する。
⑵任意後見人となるべき者及びその権限の内容を定め、本人の判断能力が
低下した場合に、家庭裁判所が任意後見人を監督する「任意後見監督人」を
選任する。
⑶これにより任意後見契約の効力を生じさせ、本人を保護するものである.
②任意後見契約締結から後見開始までの流れ
⑴将来、判断能力が低下することに備えて任意後見契約を締結
・認知症などで判断力が低下したとき、誰に(任意後見受任者…信頼できる者)
何を(生活、療養看護、財産管理等の代理権)委任するか十分に検討。
・任意後見人には代理権のみで、法定後見人のような同意権や取消権はありません。
悪徳商法で騙されても、任意後見人がそれを取り消すことはできない。
・任意後見契約書の作成は、公証役場で公証人に「任意後見契約公正証書」として
作成して貰う。
⑵判断能力が低下してしまった。
・医師の診断により、法定後見でいう補助以上に該当するという判断
⑶任意後見監督人の選任の申し立て
・本人、配偶者、四親等内の親族、または任意後見受任者は家庭裁判所に
任意後見監督人選任の申し立てを行う。
・本人自らが申し立てを行う場合、及び本人が既にその意思表示が出来ない場合を
除き、任意後見監督人の選任には、本人の同意が必要。 (自己決定の尊重)
※任意後見契約には、通常「本人の判断能力が低下したときには「受任者が
任意後見監督人選任の申立てをする」との規定が入れられる。
⑷家庭裁判所によって、任意後見人を監督する任意後見監督人が選定される。
・これにより、受任者は任意後見人と呼ばれる立場となる。
⑸任意後見開始
・任意後見人は任意後見契約に基づき、その範囲内で後見を開始する。
③任意後見と法定後見開始の審判
⑴任意後見と法定後見とでは、任意後見による保護が優先される。(登記されて
いることが必要)
・任意後見契約が締結されていると、判断能力が低下して、法定後見の申立を
しても任意後見契約が優先される。任意後見契約書が見つからない場合でも、
登記されているのでその内容は分かる。
⑵任意後見契約が効力を生じた後、本人の判断能力の更なる低下で、代理権だけで
なく、同意権や取消権も必要となった場合など、家庭裁判所が本人の利益の
ために特に必要と認めるときに限り、家庭裁判所は法定後見開始の審判をする
ことが出来る。
⑶法定後見開始の申立は、民法規定の申立権者のほかに、任意後見受任者
任意後見人または任意後見監督人もすることが出来る。
・法定後見開始の審判を受けた場合は、任意後見契約は終了する。
④任意後見人の職務
任意後見人は任意後見契約時に取り決めた契約内容に基づいて後見事務を
行うことになる。
⑴任意後見契約の効力が生じたら(任意後見監督人の選任)契約書に基づき
証書等の引き渡しを受ける。
⑵本人の取引銀行に、任意後見契約の効力が生じたことを申告し代理権を
得たことを伝える。
⑶本人の財産目録や日々の入出金の状況等を作成し、任意後見監督人の要請に
対し、いつでも報告できるように財産の管理をしておく。
⑷任意後見人には、代理権しか付与されていないので、本人が悪徳商法に
騙された場合などに、取消権を行使できず、本人保護のために法定後見の
申立を検討する必要がある。
任意後見人は、その事務を行うに当たり本人の意思を尊重し、日々の心身の
状態及び生活の状況に配慮しなければならない。(身上配慮義務)
⑤任意後見人の辞任、解任
⑴任意後見人は、正当な事由がある場合には、家庭裁判所の許可を得て
辞任することが出来る。
⑵任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由が
あるときは、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の申立により、
解任することが出来る。
⑥任意後見監督人の辞任、解任
⑴任意後見監督人は、正当な事由があり、家庭裁判所の許可があるときに限り
辞任することが出来る。
⑵任意後見監督人に不正な行為、著しい不行跡、その他その任務に適さない
事由があれば、申立によるかまたは職権で解任することが出来る。
⑦任意後見契約の解除
⑴任意後見監督人が選任される前の解除、「委任者の判断能力があるうち」の
解除は、本人または任意後見受任者はいつでも公証人の認証を受けた
書面によって解除することができる。合意による解除が難しいときは、
内容証明郵便により相手方への意思表示を行い、終了の登記をする。
⑵任意後見監督人が選任された後の解除、「委任者の判断能力が低下してしまった」
場合の解除は、本人、任意後見人は正当な事由がある場合にかぎり、
家庭裁判所の許可を得て解除することができる。
⑧任意後見契約の終了
以下の場合、任意後見契約は当然に終了する。
⑴任意後見人の解任
⑵法定後見の開始
⑶契約当事者の死亡・破産等
任意後見人の代理権が、任意後見契約の終了により消滅した場合は、登記を
しなければ善意の第三者に対抗できない。
任意後見契約の3つの型
任意後見は、法定後見とは異なり、本人の判断能力が低下する前に契約を
結ぶもの。判断能力が低下してからでは、任意後見契約を利用することはできません。
(ただし、軽度の低下の場合には即効型の利用が考えられる)判断能力が低下
してからは、法定後見を利用することになります。
任意後見の契約から、任意後見が開始するまでの型により次の3つの種類があります。
① 移行型
② 即効型
③ 将来型
①任意後見契約移行型
任意後見契約は、将来判断能力が低下したときに備えて、あらかじめ契約して
おくのが基本ですが、一般の委任契約による財産管理から任意後見へと段階的に移行
させていくものが「移行型」です。
任意後見契約の締結時に、財産管理などに関する委任契約を同時に結んで、
一部の委任については開始させておくものです。
任意後見人の予定者(受任者)に事前に財産管理などを委任しておくことで
お互いの理解も深まり、安心して任意後見人を任せることができます。
さらに、日頃から本人との接触が出来るので、遅れることなく適切な時期に
任意後見の手続きを行うことが期待できます。
また、判断能力の低下が起きていなくても、体調のすぐれない方にとっては、
金融機関等での手続きは負担のかかるもの、財産管理の委任契約を締結しておけば
判断能力の低下前から信頼できる人(任意後見人の予定者)に委任が出来るので
安心していられます。
任意後見が開始すると財産管理の委任契約については、終了(任意後見に移行)
させる契約内容にしておきます。 また、財産管理の状況については必ず書面で
報告をすることも定めておくことが必要です。
②任意後見契約の即効型
任意後見契約で、契約を結んだら直ちに任意後見を開始させるものを「即効型」
といいます。
本人の判断能力が既に低下してきており、不十分になりつつあるが、まだ契約締結
する能力は備えている場合に利用できます。
当然、法定後見を選択することも考えられるが、本人が特定の信頼している人に
任意後見人になって支援して欲しいという場合に、自分の意思で支援を受ける範囲を
決めていきたいと考えるときに利用される。
③任意後見契約の将来型
任意後見契約の将来型は、任意後見契約の基本的な型で、将来の判断能力が
低下したときに、任意後見契約を開始させるものです。
この「将来型」で重要なのは、判断能力の低下した時期を見極めることです。
任意後見契約を折角結んでも、有効に開始させることが出来ずにタイミングを
外してしまうことによって、本人の利益を損ねることも起こり得ます。
身内の方などを任意後見人の予定者とするのと違い、専門家に依頼した場合には、
日頃から接触する機会もあまりなく、タイミングを計ることが難しいこともあります。
適切な時期に任意後見契約を開始できるようにするためにも、また高齢者が
悪徳商法や振り込め詐欺等の被害にあわないようにするために、「見守り契約」を
任意後見契約と同時に締結する方法があります。
「見守り契約」とは、定期的に電話や面談によって、本人の生活や健康の状況を
確認することで、何かしらの変化があったときに適切に対応できるように
するものです。
成年後見登記制度
「後見登記等に関する法律」により、法定後見及び任意後見の内容を公示する
ための制度。
これまでの禁治産宣告または準禁治産宣告の審判が確定すると本人の戸籍に
その旨が記載されていたが、関係者の強い抵抗感により、禁治産等の制度の
利用が進まなかった。
また多様な代理権を公示するには、戸籍への記載では十分対応できず
取引の安全の要請や個人のプライバシー保護の要請から、新しく登記制度が
設けられた。
・後見(保佐・補助)開始の審判 ⇒家庭裁判所→東京法務局
・任意後見監督人の選任 ⇒家庭裁判所→東京法務局
・任意後見契約の締結 ⇒公証人→東京法務局
それぞれ、家庭裁判所または公証人の嘱託による登記
後見登記に関する事務は現在、東京法務局で行われている。