「民事信託」「家族信託」の活用例
「民事信託」「家族信託」の活用例
「民事信託」「家族信託」の活用例 Ⅰ
1.福祉型信託・家族信託としての活用
① 本人死亡後の配偶者や子の生活保障への対応
“親亡き後問題” “配偶者亡き後問題”
本人が死亡した後に遺される配偶者や子に認知症や何らかの障害があり既に
判断能力が低下している場合、一般的には任意後見制度や法定後見制度を利用
することになるが、これに代わる機能として、或はこの後見制度を補完する
ものとして、信託制度を利用することが考えられる。
⑴ 親亡き後問題
親の死亡後(或は親が病気や認知症で子供の面倒をみられなくなった後)
障害を持つ子供が遺される場合の、財産管理や身上監護をどうするか、
これが親亡き後問題です。
遺される子供のため、親が元気なうちにどのような対策を打ってその時に
備えるか大変重要な問題です。
⑵ 配偶者亡き後問題
高齢社会において、俗に言う老老介護や認認介護が珍しくない現在、
大きな問題として考えられるのが、自分亡き後に遺される配偶者の財産管理、
身上監護をどうするかというものです。
認知症や何らかの障害により判断能力が低下或は喪失している場合、
誰が財産管理や生活面のサポートをしてくれるのか大変大きな問題です。
成年後見制度を利用することでこれらの問題をある程度解決することも
可能です。
更に、任意後見や法定後見にはない「柔軟性」や「幅広い選択肢」がある
民事信託制度を活用することで、委託者(親や配偶者)が希望する方法で、
財産管理をしながら、残された配偶者や子供の生活、療養、介護等に必要な
資金の給付を安定的に確保することが可能となります。
② 本人死亡後、さらに子や配偶者亡き後への対応
跡継ぎ遺贈問題
自分亡き後、認知症の配偶者や障害のある子にすべての財産を相続させる
とともに、その人が亡くなった後の財産の行方までもきちんと決めておきたい
という場合の対応策として、信託制度を利用することができます。
後継ぎ遺贈の遺言は民法には明文化されておらず、そうした内容の遺言は
無効というのが通説であったが、平成19年の信託法改正により「後継ぎ遺贈型
受益者連続信託」(信託法91条)が明文化され後継ぎ遺贈が可能となった。
通常の遺言信託または遺言代用信託により、実質的に二次相続まで指定する
ことができることになり、さらには30年という期間内であれば、三次、四次
相続までも財産の承継人を指定できるという後継ぎ遺贈型受益者連続信託
を利用することで幅広いケースに対応できることになった。
③ 成年後見制度の利用が難しいケース
成年後見制度は本人の判断能力が衰えていなければ利用できません。
判断能力のある重度の身体障害者等には利用できず、任意代理契約である
財産管理契約や民事信託により対応することになる。
④ 成年後見制度を補完する形での活用
成年後見制度と、財産管理機能のみを持つ信託を併用することで様々な
事情に対応することが可能になる。
成年後見制度は本人の財産管理のみならず、身上監護や法律行為の代理など、
幅広い権限を後見人に付与しており、その代わり家庭裁判所が後見人を監督する
という仕組になっているが、後見人の負担が極めて大きいケースが多い。
そこで、親族が後見人になっているケースでは、身上監護を後見人が行い、
財産管理を信託受託者が行うといった役割分担をすることで後見人の負担軽減を
図ることもできる。
また、信託制度を併用することで、親族後見人への監督機能を持たせることも
可能となる。
⑤ 高齢者の柔軟な資産運用・相続税対策への対応
成年後見制度はあくまでも本人の財産管理・権利擁護が目的であり、
本人の資産の積極的運用や相続税対策は不可能である。
そこで、判断能力が衰える前に不動産や預貯金等を信託することで、
本人の財産を柔軟に運用・活用することが可能となる。
親族間で信託を行うことにより、「信託報酬」を払うことなくコストを
抑えた形で、遺言や後見制度ではなし得ない対応をすることが出来る。
「民事信託」「家族信託」の活用例 Ⅱ
2. 相続・事業承継における民事信託・家族信託の活用
① 事業承継への対応 「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」
中小企業等における事業承継問題の中で、代表取締役であり大株主である
自分亡き後の自社株の行方は経営権とも絡み極めて大きな問題である。
自分亡き後、先ずは妻に自社株を譲り渡し経営を任せるが、妻亡き後には
経営センスのある三男に会社を任せようという場合、
後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用することにより、この問題に対応する
ことが出来る。
妻亡き後に、自社株の承継をめぐって子供間で遺産分割協議で揉めて、
会社経営に支障をきたすリスクを防ぐことが出来る。
② 前妻・後妻やその子らにおける「後継ぎ遺贈問題」への対応
⑴ 前妻・後妻 いずれの間にも子供がいないケース
自分亡き後の遺産は、先ずは後妻(配偶者)にすべてを譲るが、
後妻亡き後に残る財産があれば、それは前妻に与えたいというケースも
後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用することで可能となります。
更に前妻亡き後にも財産が残る場合には、第三次受益者として自分の
甥や姪を自由に指定することも出来る。
⑵ 前妻・後妻 いずれの間にも子供がいるケース
前妻・後妻双方との間に子供がいる場合に、自分亡き後の遺産は先ずは
後妻(配偶者)に、後妻亡き後に残る財産があればそれを前妻の子と後妻の子
に按分に渡したい。
⑶ 配偶者はいるが子供がいないケース
配偶者との間に子供がいない場合に、自分亡き後には、先ずは後妻(配偶者)
の生計を確保した後、後妻の死後はその兄弟ではなく自分の親族に財産を
渡したい。