小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例
特例の概要
個人が、相続または遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前に
おいて被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に
供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分に
ついては、相続税の課税価額に参入すべき価額の計算上、一定の割合が減額される。
居住用の土地や事業用の土地は、いわゆる生活基盤であり、相続税の支払いのために
これを処分してしまうと生活は維持できません。こうした問題に配慮されたのが、
小規模宅地等の特例です。
減額される割合等
相続の開始のあった日が平成27年1月1日以後の場合
⓵ 自宅編
㋑一定割合の減額・・・居住用宅地の減額割合は80%
㋺限度面積 ・・・居住用宅地の限度面積は330㎡
㋩特例適用のための要件
・配偶者が自宅の土地を相続した場合には、文句なしに適用
配偶者は自宅の土地を相続した後に、そこに住み続けてもいいし、その土地を
売却してもよい。
・子供が自宅の土地を相続した場合には、申告期限(死亡日から10か月)までに
売却してしまうとこの特例は受けられません。
だからといって、配偶者に自宅の土地を全部相続させると、二次相続でかえって
相続税が高くなってしまう可能性もあります。
なぜなら、配偶者には相続税を軽減させる、相続税の配偶者特別控除があるため、
この特例を受けなくても相続税が発生しない可能性が高いからです。
② 事業用宅地編
「事業用」とは・・・個人名義の土地、建物で事業する飲食業、コンビニ、
太陽光発電等の事業をいい一般的に事業所得や雑所得を生ずる事業のこと。
但し、不動産業、駐車場業は含みません。
㋑一定割合の減額・・・事業用宅地の減額割合は80%
㋺限度面積 ・・・事業用宅地の限度面積は400㎡
事業用の土地のほかに居住用の土地があった場合には、事業用宅地の限度面積400㎡
について80%オフと居住用宅地330㎡についても80%オフされることになり、
併用適用で最大730㎡まで適用可となりました。
③ 貸付事業用宅地編
「貸付事業用」とは・・・不動産貸付業、駐車場業、自転車駐輪業をいい、
一般的に不動産所得を生ずる事業のこと。
㋑一定割合の減額・・・貸付事業用宅地の減額割合は50%
㋺限度面積 ・・・貸付事業用宅地の限度面積は200㎡
家なき子が利用できる小規模宅地等の特例
家なき子の特例とは、小規模宅地等の特例の一つですが例外パターンです。
通常の小規模宅地等の特例には、相続人が被相続人と生計を共にしていることが
必要ですが、家なき子の場合は次の3つ要件を満たした場合に限り認められます。
「特例適用のための要件」
①被相続人が一人暮らしをしていること、
即ち家屋に親族(相続人)が居住していないことであり、相続人が被相続人と
一緒に暮らしている場合は、家なき子の特例ではなく、通常の小規模宅地等の
特例を利用できるものと考えられる。
②相続人が申告期限まで不動産を所有していること
不動産を申告期限前に売却してしまうと、小規模宅地等の特例は受けられません。
③相続人がマイホームに居住していないこと
相続開始前3年以内に相続人がマイホームに居住していないことが必要。
所有の有無ではなく、居住の有無であり、例えば保有の住宅には住んでおらず
別の賃貸住宅に居住している場合は家なき子として認められ、適用可となる。
相続税の小規模宅地等課税価格の計算特例と相続した自宅の課税関連表
被相続人の居住形態 | 同居人あり | 同居人あり | 同居人なし |
---|---|---|---|
小規模特例対象者 | 配偶者 | 同居の親族 | 家なき子 |
小規模特例の適用注意点 | - | 相続税の法定申告期限までに譲渡すると特例を適用できなくなる | 相続税の法定申告期限までに譲渡すると特例を適用できなくなる |
相続時点の注意点 | 敷地だけでなく家屋も居住している配偶者や同居人が取得すること | 敷地だけでなく家屋も家なき子が取得すること |
譲渡までの注意点① | 住まなくなってから3年目の年末までに譲渡すること | 相続時から譲渡するまで空家状態で維持すること |
譲渡までの注意点② | 家屋を取り壊した場合は取り壊したときから1年経過する日までに譲渡すること | 譲渡対価が1億円を超えないこと |
小規模宅地等の特例による控除額の計算方法
①特定居住用宅地等の減額計算方法
被相続人の自宅の敷地の330㎡まで80%減額される。
減額の対象となる土地(個人名義の土地であること)
⑴一軒家が建っている土地
⑵購入したマンションのある土地
⑶二世帯住宅の土地
ⅰ)土地を一つだけ相続した場合
(例1)相続人が一人で300㎡の土地(価額5,000万円)を相続
5,000万円×80%=4,000万円減額
(例2)相続人が一人で400㎡の土地(価額5,000万円)を相続
5,000万円×330/400×80%=3,300万円減額
(例3)相続人が2人で400㎡の土地(価額5,000万円)を分割、協議して330㎡
まで減額されるが、小規模宅地等の特例適用に必要な要件をそれぞれが
満たすことが必要。
兄350㎡(4,375万円) 弟50㎡(625万円)の土地を取得
兄:4375万円×280㎡/330㎡×80%=2,800万円減額
弟:625万円×50㎡/50㎡×80%=500万円減額
ⅱ)土地を二つ以上相続した場合に想定されるパターン
㋑貸付事業用宅地等(人に貸している土地)+特定居住用宅地等(住宅で
使っている土地)
・特定居住用宅地優先で減額
特定居住用宅地の面積の合計×200/330+貸付事業用宅地の面積の合計≦200㎡
・貸付事業用宅地優先で 減額
貸付事業用宅地の面積の合計×330/200+特定居住用宅地の面積の合計≦330㎡
㋺貸付事業用宅地等(人に貸している土地)+貸付事業用宅地等(人に
貸している土地)
㋩特定事業用宅地等(事業で使っている土地)+特定居住用宅地等(住宅で
使っている土地)
・特定事業用宅地優先で減額
特定事業用宅地×330/200+特定居住用宅地≦330㎡
特定事業用宅地の面積の合計≦400㎡ かつ 特定居住用宅地の
面積の合計≦330㎡ の場合完全併用可
㊁特定事業用宅地等(事業で使っている土地)+特定事業用宅地等(事業で
使っている土地)
㋭特定居住用宅地等(住宅で使っている土地)+貸付事業用宅地等(人に
貸している土地)+特定事業用宅地等(事業で使っている土地)
複数の土地のある場合の計算式
(例)
大阪の居住用の宅地:200㎡・1億円
福岡の貸付用の宅地:400㎡・3億円
特定居住用宅地:A
貸付事業用宅地:B
特定事業用宅地:C
A×200/330+B×200/400+C≦200㎡
特定居住用宅地で200㎡を使ったあと福岡の貸付事業用宅地
400㎡のうち特例の適用できるのは78.7㎡となる。
200㎡ー200×200/330=78.7㎡
A:1億円×80%=8,000万円
B:3億円×78.7/400×50%=2,951万円
住宅を二つ相続した場合、小規模宅地等の特例を使うためには、被相続人の
自宅且つ生活を共にしていたことが必要となる。
②貸付事業用宅地等の減額計算方法
被相続人が貸している土地200㎡まで50%減額される。
減額の対象となる土地は
⑴貸付をしているマンションやアパート
⑵貸駐車場
⑶貸駐輪場
ⅰ)土地を一つだけ相続した場合
(例1)相続人が一人で200㎡の土地(価額4,000万円)を相続
4,000万円×50%=2,000万円減額
(例2)相続人が一人で400㎡の土地(価額5,000万円)を相続
5,000万円×200㎡/400㎡×50%=1,250万円減額
(例3)相続人が兄弟二人で400㎡の土地(価額5,000万円)を分割
(兄のみが特例適用)
兄350㎡(4,375万円) 弟50㎡(625万円)
兄:4,375万円×200㎡/350㎡×50%=1,250万円減額
③特定事業用宅地等の減額計算方法
個人が事業をやっていた土地は400㎡まで80%減額
⑴土地を一つだけ相続した場合
(例1)
相続人1人、300㎡の土地(5,000万円)を相続
5,000万円×80%=4,000万円減額
(例2)
相続人1人、500㎡の土地(5,000万円)を相続
5,000万円×400/500×80%=3,200万円減額
(例3)
相続人が2人で500㎡の土地(5,000万円)を兄弟で分割
兄:450㎡(4,500万円)
弟: 50㎡(500万円)
<兄のみ特例適用>
兄:4,500万円×400/450×80%=3,200万円減額
弟:0
<兄350㎡、弟50㎡特例適用>
兄:4,500万円×350/450×80%=2,800万円減額
弟:500万円×50/50×80%=400万円減額
⑵土地を複数相続した場合
特定事業用宅地等+特定居住用宅地等
大阪にある土地:200㎡(5,000万円)居住用
福岡にある土地:400㎡(2,000万円)事業用
居住用:5,000万円×80%=4,000万円減額
事業用:2,000万円×80%=1,600万円減額
小規模宅地等の特例適用後、相続税の支払いが 0円になっても申告が必要
特例適用後に相続税の支払いが0円となった場合にも、税務署への相続税の
申告は必要です。相続税の申告書の提出が特例の適用要件となっている。
特例適用後、減額されない財産が残った場合は どうするか。
特例適用しても土地のすべてが控除されない場合には、その残った部分に
ついて相続税を計算しなければならない。
計算の手順
① 被相続人の全財産から相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×
法定相続人数)を差し引く
② ⓵で計算された金額から特例適用で減額できる金額を差し引く
③ ②で計算された金額に対して相続税の課税率をかけて相続税をだす。
小規模宅地の特例と有利選択のポイント
小規模宅地の特例における有利選択のポイントは「㎡単価比較」をすることです。
限度面積と減額割合をそれぞれ掛け合わせた数字を比較します。
① 特定居住用 330×80%=264
② 特定事業用 400×80%=320
③ 貸付事業用 200×50%=100
①と②は完全併用することが出来るので有利選択することはありません。
有利選択が必要なのは①と③のケースと②と③のケースになります。
①特定居住用と③貸付事業用
①の特定居住用は264、③の貸付事業用は100なので、㎡単価が、2.64倍か否かで
有利判定をします。
「具体例」
特定居住用 単価300千円
小規模宅地の特例適用額:300千円×330㎡×80%=79,200千円
●貸付事業用の1 単価793千円
小規模宅地の特例適用額:793千円×200㎡×50%=79,300千円
➡ 貸付事業用を選択
●貸付事業用の2 単価791千円
小規模宅地の特例適用額:791千円×200㎡×50%=79,100千円
➡ 特定居住用を選択
ボーダーラインは792千円(300千円×2.64)
②特定事業用と③貸付事業用
②の特定事業用320、③の貸付事業用は100なので、㎡単価が、3.2倍か否かで
有利判定をします。
「具体例」
特定事業用 単価200千円
小規模宅地の特例適用額:200千円×400㎡×80%=64,000千円
●貸付事業用の1 単価641千円
小規模宅地の特例適用額:641千円×200㎡×50%=64100千円
➡ 貸付事業用を選択
●貸付事業用の2 単価639千円
小規模宅地の特例適用額:639千円×200㎡×50%=63,900千円
➡ 特定事業用を選択
ボーダーラインは640千円(200千円×3.2)