遺贈とは
遺贈とは
民法では、法定相続人以外には被相続人(死亡した人)の遺産を相続する権利は
ありません。
従って、相続人が配偶者と子供の場合、直系尊属(父母)や兄弟姉妹、
或は内縁関係の妻や、被相続人の介護など特別に世話をした第三者などに対しては、
遺産を相続する権利は認められません。
こうした場合には、被相続人が生前に、法的に有効な遺言を作成しておけば
法定相続人以外にも遺産を取得させることができます。
遺贈とは、遺言による財産の無償の贈与ということです。
遺贈者(遺言で財産を与える人)は相続人以外に、全くの第三者や法人などを
受遺者(遺言で財産を受ける人)にすることが出来ます。
※尚 2019年7月1日より「特別の寄与の制度」が施行され相続人以外の
被相続人の親族が無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、
相続人に対して金銭の請求をすることが出来るようになりました。
受遺者は遺言の効力発生時に生存していなければいけません。
遺言者の死亡前に受遺者が死亡しているときは、遺贈の効力は生じません。
こうした場合には、遺言を作成し直すことになりますが、その際、遺言者の
判断能力が低下していたり、公正証書を作成し直すには改めて費用が発生します。
そこで有効な方法として考えられるのが「予備的遺言」という方法です。
「予備的遺言」
民法994条 「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を
生じない。民法995条「遺贈がその効力を生じないとき、……受遺者が受けるべきで
あったものは、相続人に帰属する。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その遺志に従う。
<予備的遺言具体例>
第○条 遺言者○○は遺言者に属する一切の財産を、姪の○○に遺贈する。
第○条 遺言者は、遺言者の死亡以前に姪○○が死亡したときは、遺言者の一切の
財産を姪の子△△に遺贈する。
特定遺贈
特定遺贈とは、不動産や預貯金などの特定の財産を遺贈することであり、
遺贈は被相続人の単独行為であり、受遺者が特定遺贈を受けた財産が必要なければ
裁判所への申述によることなく、被相続人死亡後いつでも遺贈義務者に対する
意思表示により遺贈を放棄することができます。
この意思表示は通常、配達証明付きの内容証明郵便で行います。
相続人以外に不動産が遺贈された場合には、その受遺者に対して不動産取得税が
かかります。相続人である受遺者にはかかりません。
相続人資格者である受遺者が、相続放棄を申述し受理されても、その特定遺贈に
ついては有効ということになります。
全体として相続財産が債務超過の場合には、相続債権者への弁済を完了してからで
ないと、遺贈は実行できません。
包括遺贈
包括遺贈とは、遺産の全部またはその一部の一定割合を指定して行う遺贈である。
包括遺贈の放棄を行う場合には、相続放棄と同様、家庭裁判所に対して包括遺贈放棄の
申述書を提出しなければなりません。
相続人が遺贈を放棄しても、相続権を失うわけではないので、遺贈を受けた相続人が
相続財産とのかかわりを一切絶つためには、相続放棄をしなければならない。
包括遺贈と相続の共通点
①包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有し(民990条)包括遺贈が行われると
相続人との遺産共有関係が生じ、受遺者も債務の承継をすることになる。
②また、包括受遺者は、遺産分割協議に参加することができます。
包括遺贈と相続の相違点
①包括受遺者は遺留分がないので、受遺分が侵害されるような特定遺贈があっても、
遺留分減殺請求はできません。
②包括受遺者は代襲相続を受ける権利はありません。
③共同相続人や他の包括受遺者が、相続の放棄や遺贈の放棄をした場合でも、
包括受遺者の持ち分が増えることはありません。
負担付遺贈
受遺者となる者に対し、たとえば相続人や第三者のために一定の負担を課す
といったものであり、受遺者は遺贈の目的の価額を超えない限度で負担を履行
することが求められます。
受遺者が負担を履行しない場合、他の相続人が、相当の期間を定めて履行を
催告し、その期間内に履行されない場合には、家庭裁判所に遺言の取消しを
請求できることになっている。
「相続させる」と「遺贈する」の違い
①相続人に財産を残す場合は「相続させる」、相続人以外に財産を与える場合は
「遺贈する」の文言を使います。
②相続人に財産を残す場合、特に相続財産に不動産がある場合には「遺贈する」
ではなく「相続させる」の文言を使うことが有利となります。
⑴不動産について「相続させる」とした場合には、その相続人が単独で移転登記の
申請ができますが「遺贈する」とした場合には、受遺者と遺言執行者または
他の相続人全員(遺贈義務者=登記義務者)との共同申請をすることになります。
従って「遺贈」の場合には、遺言で遺言執行者の指定をしておくことで
手続きがスムーズになります。
⑵相続財産が農地の場合「相続させる」としたときは農地法の知事許可は
いりませんが「遺贈する」としたときは、包括遺贈の場合を除き知事許可が
必要となる。
⑶相続財産が借地権や借家権の場合「相続させる」としたときは賃貸人の承諾は
不要であるが、「遺贈する」としたときは、賃貸人の承諾が必要となる。
賃貸人の承諾が得られない場合には、裁判所に対し賃貸人の承諾に代わる
許可を求めることになる。
⑷「相続させる」遺言または相続人に対する「遺贈する」の遺言を登記原因と
する所有権移転登記を申請する場合、不動産の固定資産評価額の
0.4%の登録免許税が必要。
相続人以外に「遺贈する」遺言の登録免許税は不動産の固定資産評価額の
2%の登録免許税が必要。
⑸「相続させる旨の遺言」は遺産分割方法の指定であり、遺産分割を経由せず
直ちにその相続人に所有権が帰属する、というのが判例の示すところである。
(平成3年4月3日最高裁)
遺贈と相続税
被相続人の有する遺産を取得した人に対し、課税されるのが相続税であります。
その取得原因が「相続」だけでなく、相続人以外の人が遺言による「遺贈」で取得
した場合もその財産に相続税が課税されます。
また、被相続人の1親等の血族や配偶者以外の人が、相続または遺贈により
財産を取得した場合には、算出された相続税額の2割が加算されます。
相続税の計算の際に控除できる相続税の基礎控除額は、
「3,000万円+法定相続人数×600万円」であり、遺贈を受けた人が法定相続人で
ない場合は控除の対象者にはなれません。