一人で悩まず、是非ご相談を!

街の法律家 行政書士伊藤武彦事務所

遺言執行者の権限と執行行為のトラブル

遺言執行者の権限と執行行為のトラブル

包括遺贈における遺言執行者の権限

包括遺贈における遺言執行者

 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の行為をする権限を
 有する(民1012)

 包括遺贈の遺言執行者についても同様の権利義務を有することになる。
 
 ただし、包括遺贈の種類が異なれば、遺言執行者の具体的な行為も異なるため、
 権限についても異なることになります。

全部包括遺贈における遺言執行者

 包括遺贈は、相続開始と同時に相続財産に属した一切の権利義務を承継するため、
 全部包括遺贈の受遺者は被相続人の財産に属した全ての権利義務を承継する
 ことになるが、遺贈を原因として不動産の移転登記をする場合には、受遺者の
 単独登記は認められません。

 不動産登記法は共同申請の原則を採っており、身分関係に基づく権利移転である
 相続の場合を除き、意思表示による権利移転である遺贈は、共同申請の原則が適用
 されます。

 従って、遺言執行者が存在する場合には、特定遺贈だけでなく、包括遺贈についても
 遺言執行者が共同申請人となります。

割合的包括遺贈における遺言執行者

 割合的包括遺贈の場合、受遺者は、共同相続人や他の共同包括受遺者とともに
 共有関係
にあります。従って、最終的に財産を取得するには、遺産分割協議を経て
 決定することになり、そのため、遺言執行者が存在しても、原則、登記や目的物の
 引き渡しを行うことはありません。

 遺言執行者の権限は、相続財産の保全や管理に限定されることになります。

債務清算付包括遺贈における遺言執行者

 相続債務を弁済した後の財産について、一定の割合で包括遺贈させるという場合、
 相続財産を処分して相続債務を弁済してからでないと、遺言を実現することは
 できません。

 こうした遺贈の場合に、遺言執行者が存在するときには、遺言執行者は相続財産を
 清算処分して、それを分配する権限を有することになります。

相続人なき全部包括遺贈における受遺者の登記について

 不動産登記法は共同申請の原則を採っており、身分関係に基づく権利移転である
 相続の場合を除き、意思表示による権利移転である遺贈は、共同申請の原則が適用
 されます。

 被相続人に法定相続人の存在しないことが、戸籍などにより明らかな場合で
 あっても遺贈自体は意思表示が介在しているので、やはり共同申請の原則が適用
 されるものと考えられる。

 共同申請する登記義務者である相続人が存在しない場合でも、遺言執行者は登記
 義務者になる
ことができます。従って、遺言執行者を選任して共同申請することに
 なります。

民法1013条と相続人の妨害行為

遺言執行の妨害行為の禁止

 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務
 を有しています。(民1012条)

 このように遺言執行者には、相続財産の管理処分権が認められていますが、
 相続人が遺言執行者の行為に抵触する行為をしてもその行為が有効となるならば、
 この条文を規定した意味がありません。

 そこで民法1013条には、遺言執行者の管理処分を妨げる相続人の行為について
 禁止
することが定められています。

 このように民法1012条と民法1013条とがあいまって、相続財産の
 管理処分権が、遺言執行者に専属的に帰属
していることが規定されています。

相続させる旨の遺言と遺言執行者の職務権限

 遺言者が遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言をした場合、この相続させる旨の
 遺言は、原則、遺産分割方法を指定した遺言であり、相続開始時に当然に物権的効果
 が生じる
ものとされています。

 従って、特定の不動産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言により当該相続人が
 被相続人死亡のときに直ちに当該不動産を相続により承継した場合には、
 遺言執行者が選任されていたとしても、当該不動産に関する限り、遺言の内容
 はすでに実現されており、当該相続人において単独で相続を原因とする
 所有権移転登記手続き
が出来、遺言執行者は登記義務者とはならない。

 しかし、当該相続人への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産
 につき自己名義の所有権移転登記を経由したために、遺言の実現が妨害される状態
 が出現した場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、この妨害を廃除
 するため、遺言内容と違うその所有権移転登記の抹消登記手続きを求める
 ことが出来る。

 更には、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続きを求めることも
 出来るものと解される。

 そしてこの場合には、当該相続人においても、自ら当該不動産の所有権に基づき
 同様の登記手続きを求めることも出来る。

相続債権者は遺言執行者に債務の履行を求めることが出来るか

 被相続人の債権者(相続債権者)は相続人に対して、債務の弁済を求めても、
 遺言執行者の管理する相続財産については、相続人に管理処分権がないため
 (民1013)遺言執行終了まで債権回収を待たなければならないのか。

 相続債権者は、本来、相続財産全体が債権の引き当てとなっており、これでは
 極めて不都合ということになります。

 そこで相続債権者は、遺言執行者に対し、その管理する相続財産からの債務の
 弁済を求める
ことが出来るものと考えられます。
 
 ただし、遺言執行者の職務権限は、「遺言の執行に必要な範囲」に限定されて
 おり、相続人の相続財産に対する管理処分権の制限もその範囲に制限されている。

 従って、遺言執行者は、常に、相続債権者からの弁済の請求に応じなければ
 ならないというものではない。

 一方、相続人の債権者は、遺言執行が終了するまでは、遺言執行者の管理する
 相続財産については、相続人に管理処分権がないので、遺言執行者への弁済の
 請求はできない
ものと考えられる。

特定の預貯金を相続させる旨の遺言

 遺言書において、特定の預貯金について特定の相続人に相続させる旨の遺言文言
 しかない場合には、不動産と同じように、遺言の趣旨に反する妨害行為などがない
 限り、遺言執行者には何の権限もないといえます。

 ただし、特に公正証書遺言においては、遺言執行者を指定し、遺言執行者
 預貯金の解約、名義変更、払い戻し権限を定めている場合が多く、こうした場合
 には遺言書記載通りの権限が認められる。

特定債権の遺贈に関する債務者対抗要件

 特定債権の遺贈については、「特定債権が遺贈された場合、債務者に対する
 通知又は債務者の承諾
がなければ、受遺者は、遺贈による債権の取得を債務者に
 対抗できない。

 
 そして、この債務者に対する通知は、遺贈義務者からすべきであって、受遺者
 自らが遺贈により債権を取得したことを債務者に通知したのみでは、受遺者は
 これを債務者に対抗できないというべきである」というのが判例であり、
 特定債権の遺贈については、債務者対抗要件を具備する必要があります。

 遺贈義務者というのは、被相続人の地位を承継した相続人全員、あるいは、
 遺言執行者であり、相続人全員の連名により当該預貯金債権を受益相続人が取得
 したことを認める書面が金融機関に対して提出されるか、あるいは遺言執行者
 からの通知
がなされれば、債務者対抗要件を具備したことになります。

 

powered by Quick Homepage Maker 5.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional